取材レポート

【取材レポート】その時、EARNiNEに何が起きていたのか

EN1J_EN2J

 どうも。今回は読者諸兄に「EARNiNE」というイヤホンブランドについて、改めて紹介をしたいと思っています。どういう経緯でイヤホンが誕生し、その後、何が起こったのか。

 この記事はEARNiNEが新しいシングルBAイヤホンを発売すると知った私が、日本でのEARNiNE製品販売を行っている株式会社 七福神商事へ行き、最初からEARNiNEに関わっているTONYさんに伺った内容となっています。

 私が初めてEARNiNEのイヤホンを展示会で試聴した時、TONYさんはTSST-kという光学ドライブを開発・販売・製造する会社の方でしたが、彼は2016年から、七福神商事という会社を立ち上げ、その社長をされていたのです。

 私はずっとEARNiNEが気になっていました。EARNiNE初イヤホン「EN1J/EN2J」が発売するまで、TONYさんはとても勢力的に情報発信していたのに、なぜ発売後は全くそれが無かったのか。そして、なぜTONYさんは七福神商事を立ち上げることになったのか。そこには知られざる物語が存在していたのです。

EARNiNE誕生

 EARNiNEは光学ドライブを事業の中心としたTSST-kという会社が、未来を見据えた新規事業として2014年に立ち上げたイヤホンブランドでした。

 「なぜ光学ドライブの会社がBAイヤホンを?」と思うでしょう。実際に社内にいたTONYさんも、当時そう感じていたそうです。その理由は光学ドライブの制御技術にありました。高速で揺れながら回転するディスク上へ精確にレーザーで記録する核心技術が、BAドライバーの生産に応用できるものだったのです。

 そのような理由で、TSST-kはBAドライバー開発という新規事業をスタートすることになりました。しかしBAドライバーの生産というのは、そう簡単なものではなかったのです。「原理的に作れる」というのと「大量に安定的に作れる」というのは全然違うんですね。

 実際に作ってみると、品質に大きなバラツキが出てしまいました。最初は「10個作って全て音が違う」というような状況。全く製品として販売できるレベルではありませんでした。

 それでも材質や工程管理を徹底的に見直し、不良品率を劇的に改善。2015年の夏頃には量産化への目処が立ったのです。それも、年間4000万台のDVDドライブを世界中に売っている会社だからできたことでした。

 そうして完成したBAドライバーから、シングルBAイヤホンと2BAイヤホンの2機種が誕生しました。この時に産まれたのがEARNiNEというブランドです。

EARNiNE

展示会でマニアからの洗礼

 完成したイヤホンの出来栄えはどうなのか?その結果は日本の展示会で、マニアたちによって評されることになりました。

 その頃のTONYさんはまだ日本のポータブルオーディオへの理解が少なく、正直なところ「まぁ、そこそこの評価は得られるだろう。」と気楽に考えていたようです。

 しかし、いざ展示会が始まり、TONYさんがまず驚いたのが、お客さんが試聴に持ってくる異様な形をした物体。多くのお客さんが、ゴツいDAPにでかいアンプを何段にも重ね、ギラギラとしたカスタムIEMを首からぶら下げています。

 TONYさんは「これはなんだ?何が起きてるんだ?」と思いました。驚きを隠しつつも、ブースにやってくるお客さんにイヤホンを聴いてもらいます。すると皆、一様に険しい顔をして聴いた後、「ありがとうございます。」とだけ言って去っていきました。中には何も言わず、ものの数秒で席を立つ人もいたそうです。

 確かにBAイヤホンはドライバーを通電して筐体に入れれば音は出ます。しかし、それだけでは全く不十分だったのです。そこから、徹底的なリサーチの日々が始まりました。

 まず日本のオーディオ市場にはどんなイヤホンが存在するのか、それらをドライバー数や構成ごとにリストにし、人気モデルの秘訣を知るために試聴できるものは全て聴き比べを行いました。

 TONYさんはこの過程で様々なイヤホンやDAP、アンプに出会い、ポータブルオーディオの奥深さと面白さに気づいたと言います。そして、その知見がEARNiNEのイヤホン作りにも反映されることになりました。

 そうして音質のブラッシュアップが行われ誕生したのが、EARNiNEのEN1J EN2Jというモデル。ここに至るまでには、ドライバー完成から実に1年以上が経過していました。

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発売後、さらなる悲劇が

 量産化や展示会での酷評など、発売までに多くの苦難を乗り越えてきたEARNiNEですが、実は本当の試練はここからでした。

 EN1J/EN2Jの発売から、ほどなくして開発会社であるTSST-kに問題が発生。DVDドライブ事業継続が困難となり、会社の存続すら危うい状況となってしまったのです。

 「自分のいる会社が無くなることほど、辛い経験というのは少ないです。」当時を振り返って、TONYさんは次のように語ります。

 「私は立場的にあらゆることをして事業を復活できるよう努力する以外、選択できることはほぼ無かったです。しかし、なんとか挽回したい、再生させたい、社員を職場に戻したい、それが全てでした。」

 EARNiNEの開発、設計、製造を共に行ってきた仲間たちがひとり、またひとりと去っていく中で、TONYさんも決断の時を迫られていました。

 この時、TONYさんには大きく2つの選択肢が残されていました。1つは会社残るがEARNiNEは諦め、全く違う仕事をすること。もう1つは知人が紹介してくれた好条件の会社に転職することです。

 しかし、彼はそのどちらも選びませんでした。

EARNiNE奇跡の復活

 彼が選んだ道、それはEARNiNE再生というチャレンジングなものでした。

 既に会社を去ったEARNiNEプロジェクトの仲間に声をかけ、会社からEARNiNEの事業を買収。自身は七福神商事という会社を立ち上げ、日本でのEARNiNEを継続することを決めたのです。社名の由来も、単純に幸せがいっぱいの会社を作りたい、一緒に働く仲間を呼び戻したいという願いからつけられました。

 まさに人生をかけた挑戦。TONYさんはなぜそこまでEARNiNEにこだわったのでしょうか。
 
 「私にとってEARNiNEは子どものようなもの。それが産まれてすぐに死んでしまうのは耐えられませんでした。ここでEARNiNEを諦めてしまったら、自分が死ぬ時に必ず後悔する。そう思ってEARNiNEを続ける決断をしました。」

 EARNiNEを続ける理由。彼の中にはブランドへの愛情だけでなく、新たなBAドライバーによる業界発展も視野に入っています。

 「独自開発・自社製造のBAドライバーで、イヤホン市場にもっと新しい選択肢の提案をしたいと考えています。BAの可能性はこれからです。まずそのことを示す製品として、シングルBAイヤホンを発売します。」 

EARNiNEがBAドライバーを作る意義

 EARNiNEはなぜ茨の道を歩き、独自のBAドライバーを作り続けるのか。それは多様な製品を求めるオーディオユーザーがいるからに他なりません。

 BAドライバーは特許さえあれば誰でも作れるというものではなく、安定的に生産をするには高い技術と経験の集積が必要なのです。それゆえ、BAドライバーの選択肢というのはどうしても限られてしまい、組み合わせも限定的になってしまっているのが現状です。

 だからこそ、EARNiNEは新しいBAを作り、その可能性を広げようとしています。しかし、いくら新しいBAができたからといって、どんな企業もすぐに採用したいとなるわけではありません。だからこそ、EARNiNEは自社BAの素晴らしさをすぐでも実感できる完成品のイヤホンを製作し、それを実感してほしいと考えたのでした。

 そして、次にリリースされる新作は、「EARNiNEのBAは現時点『ここまでできる』と証明する商品です」と彼は言います。

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EARNiNEの新作
(画像はお借りしました)

10人中8人がNOと言ったイヤホン

 EARNiNEの新作イヤホンは実に面白いアプローチで開発がなされました。EARNiNE誕生とほぼ同時期に開発がスタートした新作は「日本のユーザーが求める音を徹底的に追求する」というコンセプトのもと誕生しました。

 様々な音の開発機を用意して日本の展示会に出展し、実際にユーザーに聴いてもらって好みを調査するという手法で開発が進められました。

 始めは10人が聴いたら8人に「これはダメ」と言われ、かなりショックだったそうですが、ユーザーの「もうちょっとこうだったら…」という意見を取り入れ、改良を重ね、何十人、何百人に聴いてもらううちに「これだ!」という方向性が見えてきました。

 そうした地道な改良作業をなんと2年以上も続けた結果、自分たちでは気づけなかった「潜在的に好まれる音のバランス」に気づくことができたのです。これが分かってからは、ユーザーからの評価のほとんどが「これは良い!」に変わっていったと言います。

 もちろん、意見を取り入れたのは音質だけではありません。例えば、新作イヤホンのプラグには段差がつけられています。これはiPhoneで試聴に来たユーザーがケースが邪魔でプラグが刺さらなかった経験から改良した点です。

 さらにはケーブルもいろいろな種類の試作品を作ってユーザーに試してもらいました。白や黒といった色が違うものや、太いタイプ細いタイプなどなど。最終的に黒のツイストケーブルにしてからは、不満の声が聞こえることはほとんど無くなったそうです。

 こうして完成度を高めていくうちに、ユーザーの意見にも大きな変化が見られるようになりました。展示会の度に試聴に来てくれていたユーザーたちが、音の良し悪しの感想ではなく「これはいつ発売しますか?」と質問をしてくるようになったのです。

 TONYさんはその時「この人たちに喜んでもらえるものをようやく作ることができた」と感激したそうです。

 今回の新作イヤホンは、EARNiNEが日本のコアユーザーと長い時間をかけて一緒に開発をしてきた特別なモデル。そして、EARNiNEのBAドライバーが持つ魅力を現時点で可能な限り引き出した製品となっています。

 「出来る限り多くの人に聴いてもらい、イヤホンの楽しさやBAドライバーの素晴らしさを感じてもらいたい」というのがTONYさんの、そしてEARNiNEの考えです。

 「このシングルBAイヤホンを聴いてその良さを感じたら、たくさんの人にすすめてほしいです。EARNiNEが成長することで、以前職場から離れた方が戻れるようにしたい。技術者をさらに増やしてもっといいもの作りをしたい。」という言葉からも、この製品にかける熱い思いが伝わりました。

 これはひとまず聴くしかないですね。EARNiNEの新作は7月15日、16日のポタフェス秋葉原で聴くことができますし、発売もそう遠くないようです。

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EARNiNEの今後に注目

 ということで、とても長くなってしまったEARNiNEの物語もひとまずここで終わりとなります。最後まで読んで下さった方々、ありがとうございます。 一部この記事に出ていないさらなる深い話もありますが…諸事情により割愛させて頂きます。(お察しください。)

 最後に、話の中に出てきた新作イヤホン、ひと足先に聴かせて頂いてますがとても素晴らしい出来栄えになっています。このようなストーリーを知ると、イヤホンといえど単なる部品の寄せ集めではなく、様々な人が愛情を込めて生まれてくるのだなと感慨深く思いました。詳細は後日レビュー予定!

 オーディオ市場で一味違う面白いことをやろうとしているEARNiNE。今後も目が離せない存在だと思いました!読者諸兄も要チェックですよ!

 EN1J/EN2Jは残りわずかとなっているそうですが、七福神商事さんのYahooショップで購入できるそうなので、気になった方はそちらもチェックしてみてください!

七福神商事 – Yahoo!ショッピング

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