音楽

きのこ帝国「愛のゆくえ」を聴いて。きのこ帝国の行方はどこへ?

kinokoai

 『猫とアレルギー』から1年。きのこ帝国が2枚目のメジャーアルバム『愛のゆくえ』をリリースしました。シングル曲やインタビューから予想されてたことですが、やはり傑作でありながら同時に問題作という感じですね。聴くほどに「きのこ帝国どうなっちゃうの?」という不安を覚えずにいられません。

 というわけで今回はオフィシャルインタビューを参考に、きのこ帝国の新譜について感想や考察を書きたいと思います。

ブレるつもりで作った『猫とアレルギー』

 新譜の話をする前に、まずは衝撃的だった前作を振り返りたいと思います。初期ファンからすると「どうなっちまったんだ!?」という混乱を感じたのが前作『猫とアレルギー』ではないでしょうか。

 メジャー1stシングル「桜が咲く前に」では、メジャーらしい曲だなぁという印象はありつつも、カップリングがなかなか尖っていて心配する要素はまるでありませんでした。(特にスピカは名曲!)

 ところが満を持してリリースされた『猫とアレルギー』を聴いてみてビックリ。棘が無い。それどころか角すらない。ツルッと丸いアルバムにはショックを受けました。それについて佐藤はこう述べています。

佐藤「『ロンググッドバイ』という作品ができた時に、これが初期のきのこ帝国の完成形だなという実感があったんですよ。」「だから『フェイクワールドワンダーランド』からはできないことをやってみようと思いました。それで、音楽の秘境に足を踏み入れるような気持ちで、『猫とアレルギー』までを作ったんです。きっと自分達のファンは『ブレてるんじゃね?』って思ってたと思うけど、それって正解なんですよ(笑)」

 ブレてると思ったら正解。私はどうやら正解していたらしいのですが「クイズやってんじゃねーぞ!」というのが正直な気持ちですかね。それでも「怪獣の腕の中」は名曲なので、やっぱり離れられないというか、このバンドの行き先を見てみたいなぁという気持ちは変わりませんでした。

 では「ポップなアルバムを作ろう」をテーマとした前作から、今作は一体どのような変化を遂げたのでしょうか?

アップテンポからの卒業

 これまできのこ帝国のアルバムには、アップテンポな曲が必ず1つは入っていました。が、今作ではついにその姿を消しました。それどころか、全ての曲がBPM100前後の緩やかなリズムで作られています。(まだ聴いていない人は上のアルバムダイジェストを聴いてみてください。)

 つまるところ初期作品のような衝動的なロックナンバーが、全く存在しない作品になったということですね。これは私のような初期ファンからすると本当に悲しいことなのですが、それについてVo佐藤は次のように語っています。

佐藤「今回、アップテンポな曲を1曲も入れてないんですよ。今まではアルバムの中にアップテンポの曲を必ず入れるっていうルールを決めてたんですけど、今回はそれを取り払って。元々アップテンポの曲って苦手なんですよ、書くのも歌うのも。聴くのは好きなんですけど、自分がする必要性がないなと思っていて。だから今回は絶対に書かない!って決めてたんです(笑)。」

 あっ苦手だったんだ…。「スクールフィクション」みたいな曲は苦手だったんだね…。まぁ確かに、きのこ帝国の光る曲は「退屈しのぎ」だったり「平行世界」だったりと、必ずしもアップテンポな曲ではなかったと思います。

 うん、だからそれが無いからダメだとはならないと思うんだけど…。なるほど、今作がこうなったのは必然性があってのことですね。

「愛のゆくえ」をテーマにした短編集

 佐藤は今作を「“愛のゆくえ”をめぐる、9つの物語から成る短編集」と語っているように、アルバム全編を通してテーマは愛に付随していたものとなっています。

 ゆったりとした曲調はまさに愛を語る(≠叫ぶ)にはふさわしく、佐藤自身が「テンポを落として拍に余白があるほうが、音楽的な旋律も入れやすい」と語るように、きのこ帝国が持つ表現の幅、多彩なリズムを楽しめると感じました。(「でも中高生は聴けないかもしれないかなぁ」というのは本人にも自覚があるようです。)

 タイトルナンバー「愛のゆくえ」は、”これまで”と”今”のきのこ帝国の魅力を凝縮したような1曲で、オルタナティブなシューゲイザーサウンドでありながら、ゆったりと歌い上げるような美しさが印象的。

 バンドサウンドの変化は、そのまま佐藤の音楽へのスタンスの変化から来ているようで「自分の柔らかい部分を隠さなくて良いんだと思えるようになった」と語っており、逆に初期については「自分の不安定な部分を見せたくなかったし、だからこそ怒りみたいな表現に向かったりもした」と述べています。

 その上で「自分の中にある不安定な部分を音楽にして表現してもいいのかなと思ったら楽になって、制限していたものがなくなっていった」と語っているところから見ると、佐藤が本当に表現したかったことは、むしろ今のようなスタイルに集約されているのかもしれません。

きのこ帝国はフィッシュマンズになるのか

 新譜を聴いて最初に浮かんだのが「フィッシュマンズ」でした。佐藤は昔からフィッシュマンズ好きを公言しており、これまでも「パラノイドパレード」(ロンググッドバイEP)などでもフィッシュマンズライクな楽曲を作っていました。

 今作ではそれが全面に出たなという印象で、フィッシュマンズのミックスを担当していたzAk氏を共同プロデューサー&エンジニアとして迎えている点も、そうした部分をより推し進めた形になったと感じました。

 特に「畦道で」という曲は、ループ的なAメロから次第に自由に伸びていくという展開になっており、まさにフィッシュマンズ的なアプローチの曲だなぁと思います。昼ではなく夜に聴く音楽ですね。

 最近はガチャガチャとうるさかったり、サビで「ドゥーン・ドゥーン」みたいなバンドが多いので、こういうアプローチをメジャーでやっているバンドは少なくなっていると感じています。きのこ帝国は第2のフィッシュマンズとなっていくのか、それは見応えのあるストーリーかもしれません。

超名曲「パラノイドパレード」

スルメかケーキか

 あらゆるものが瞬間に消費されていく現代。人々の興味は「より新しいもの」「より刺激的なもの」に集約されています。そうした環境の中で、音楽もまた瞬間的に良さが分かりやすいもの(ケーキ)が多くなってきました。

 今回のきのこ帝国の新譜は、そういう観点から見ると1曲目の「愛のゆくえ」くらいしかケーキ的な楽曲はないかもしれません。それでも感動的な「クライベイビー」で終わる全9曲の楽曲は、ドラマチックであり、聴くほどに巧妙に作られたリズムの楽しさを感じられるものとなっています。

 こうした噛むほどに味わいの出るスルメ的なアルバムが果たしてセールス的に大丈夫なのか、もう少しファンサービスしても良いのではないか、と思わなくもないですが、こんな挑戦的なアルバムが世に出たことはそれだけで価値のあることだと思います。

 『愛のゆくえ』は、初期ファンを突き放す問題作になっています。旧来のファンは「パラノイドパレード」みたいな曲を改めて聴くと、この路線で行ってほしかった…と思ってしまうのは仕方のないことです。しかし、本人が「初期のような音楽はやりきった」というのであれば、きのこ帝国が今の時代の「空中キャンプ」を生み出してくれることを、いちファンとしては応援したいと思うのです。

 今作を聴いていると、佐藤のボーカルの表現力やメロディーにはそんな可能性を感じてしまいました。(特にアルバム後半「夏の影」以降の構成は凄みがあります。)きのこ帝国、まだまだこれからが楽しみなバンドですね!

参考:きのこ帝国 OFFICIAL WEBSITE

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